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横溝正史『本陣殺人事件』

 さて、役場の真向かいには、土間の広い、表に粗末な飾り窓のついた家があるが、この家はもと、馬方などが立ち寄って一杯やる一膳飯屋になっていた。そしてこの家こそ、一柳家の殺人事件に重大な関係を持つ、あの不思議な三本指の男が、最初に足をとめたところなのである。
 それは昭和十二年十一月二十三日の夕刻、即ち事件の起こった日の前々日のことだった。